トレンド予報(2020年9月)
低温一転猛暑へ 2020年夏の商品需要を振り返る
社会的要因(外出自粛)と気象の要因を評価
商品の欠品のほか、過剰な在庫や廃棄ロスを削減するためには、こうした外出自粛などの社会的要因や気象要因による需要の変動を定量的に把握し、気象情報を活用した適切な生産計画を立てることが必要です。
商品需要予測コンサルティングレポート7回目の今回は、企業の皆さまに、今年夏の需要変動を振り返り、気象データを使ったシミュレーション結果から、今年夏の外出自粛などの社会的要因や気象要因が商品需要に与えた影響について解説します。
なお日本気象協会では、株式会社インテージの保有する全国小売店販売データ(SRI)を用いた製造業向け簡易版商品需要予測サービス「お天気マーケット予報」を開発し、気象予測に基づき約260カテゴリにおける15週先までの需要予測を行っています。本レポートでは最後に今年7月より追加した、社会的要因による需要の変動をリアルタイムに反映した予測情報についても紹介します。
顕著な低温から一転、記録的な猛暑へ
図1は、今年(2020年)夏の全国の週平均気温の推移です。7月は梅雨前線の停滞が長期化し「令和2年7月豪雨」が発生したほか、東日本と西日本では1946年の統計開始以降もっとも雨が多く、日照が少ない一カ月となり、天候不順となった前年(2019年)をさらに下回る気温で推移しました。一方、8月に入ると梅雨明けとともに一転して猛暑となり、東日本と西日本では統計開始以降もっとも暑い8月となりました。
7月・8月を合わせた全国の平均気温は、前年が26.0℃、今年は26.2℃と、トータルでは大きく変わらない結果となりましたが、実際の需要はどのように変化したのでしょうか。まずは、7月、8月それぞれにおいて、前年からの変化をみてみましょう。
低温で推移した 7 月の商品需要
前年よりも低温で推移した 7 月の商品需要は前年からどのような変化があったのでしょうか。前年より売り上げが伸びた商材と伸びなかった商材を見てみましょう。
商材には大きく分けて、夏商材(主に夏に売り上げのピークがあり、気温が高いほど売り上げが伸びる商 材)と冬商材(主に冬に売り上げのピークがあり、夏は気温が低いほど売り上げが伸びる商材)があります。 気温が低かった 7 月は、夏商材の売り上げが伸びず、冬商材の売り上げが伸びることが予想されましたが、 実際には、需要が例年と違う動きをした商材が多くありました。 前年より売り上げが伸びた商材(表 1:左)には、ホイップクリームや防水&撥水剤、レギュラーコーヒー やシチューなどの冬商材が多くランクインしましたが、殺虫剤などの夏商材も複数ランクインしているのが 分かります。低温にも関わらず、夏商材である殺虫剤が売れた背景には、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛により、家庭内での需要が増えたことが影響しているでしょう。そのほか、サイダー、乾麺、 シロップ類などが伸びたのも、家庭内での食事が増えたことが影響していると考えられます。
また、前年より売り上げが伸びなかった商材(表1:右)には、日焼け&日焼け止め、スポーツドリンク、 アイスクリームなどの夏商材が並びましたが、意外にももっとも売り上げが伸びなかったのは冬商材である 総合感冒薬でした。例年気温の低い夏には売り上げが伸びる総合感冒薬ですが、今年の 7 月に売り上げが伸 びなかった背景には、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった春以降に買いだめされたものが家庭内に備 蓄されていることや、感染予防策として手洗いやマスク着用の習慣が広がったことにより、風邪をひく人が 少なくなっていることも影響しているでしょう。
社会的要因を定量的に評価する
このように、商品の売り上げには、外出自粛などの社会的要因と気象による変動の両方の影響が含まれま す。単純に売り上げを前年と比較するだけでは、どちらの影響をどれくらい受けているかは分かりません。 そこで、実際の気象データを使って過去の売り上げをシミュレーションすることで、気象要因と社会的要 因を切り分けて、定量的に評価することが可能です。
表3は、夏商材について、7月・8 月の観測気温を用いて売り上げをシミュレーションした結果(A) と、実際の売り上げ(B)との比較です。この気象を使ったシミュレーション結果と実際の売り上げとの差 (( B)-(A) )は、外出自粛などの社会的要因によるものととらえることができます。 すでに述べた通り、今年は7月・8月を合わせた平均気温は、前年と同じくらいでした。観測気温による シミュレーション結果に着目すると、前年比は 100%前後に収まっている商材も多く、7 月の低温による落 ち込みと、8 月の高温による伸びが相殺される予想になっています。ところが、シミュレーション結果と、 実際の売り上げを照らし合わせてみると、大きく異なっていることが分かります。 たとえば、中国茶は、シミュレーション結果では前年比 101.5%と予想されましたが、実際の売り上げは 前年比 134.6%と予想を大きく上回り、その差 33.0 ポイントが、外出自粛などの社会的要因による売り上げの増加と評価できます。同様に殺虫剤は 12 ポイントの増加、練りミルクは 5.8%の増加となりました。
一 方、外出自粛などの社会的要因による需要の減少が大きかった夏商材は果汁飲料で 13.6 ポイント減、コー ラが 12 ポイント減などで、スポーツドリンク、栄養ドリンクやドリンク剤も、外出自粛などの影響による 減少がみられました。 また、日焼け&日焼け止めは、実際の前年比は 84.2%で、これだけを見れば 15.8 ポイントの落ち込みに 見えますが、気象を使ったシミュレーション結果でも前年比 87.9%が予想されているため、大半は 7 月の低 温による落ち込みによるもので、外出自粛などの影響は 3.7 ポイント減にとどまっていると言えます。同じ く制汗剤も、前年比 88.6%と落ち込みましたが、大半は気象の影響によるもので、外出自粛などの影響は 4.7 ポイント減であることが分かります。
表4は、同様に冬商材について、7 月・8月の売り上げをシミュレーションした結果と実際の売り上げと の比較です。外出自粛など何らかの社会的要因により需要がもっとも伸びたのは防水&撥水剤で 26.7 ポイ ントの増加でした。防水&撥水剤は例年梅雨入りの6月に雨が多いほど売り上げが伸び、7 月から 8 月にか けては売り上げが落ちる商材です。今年は外出自粛が影響したためか6月まで売り上げは前年割れで推移し ていましたが、7月に入り需要がいっきに伸びました。7 月に雨が多かったことに加えて、それまで家庭内 在庫が不足していたことが、予想以上の売り上げ増加に影響したと考えられます。そのほか、レギュラーコ ーヒーで 14.6 ポイントの増加、ホイップクリームは 9.4 ポイントの増加となった一方で、総合感冒薬は 21.1 ポイントの減少、カップインスタント麺で 3.0 ポイントの減少と、同じ冬商材でも明暗が分かれました。
「お天気マーケット予報」により社会的要因による変動を監視
日本気象協会では、株式会社インテージの保有する全国小売店販売データ(SRI)を用いた製造業向け簡 易版商品需要予測サービス「お天気マーケット予報」を開発し、気象予測に基づき約 260 カテゴリにおけ る 15 週先までの需要予測を行っています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い消費行動が刻々と変化し ていることを踏まえ、今年7月より、こうした社会的要因による需要の変化をリアルタイムに反映した 4 週 先までの予測を追加ました。
2020 年9月 18 日時点での「お天気マーケット予報」によるスポーツドリンクの需要予測です。社会状 況が前年と変わらないと仮定した 15 週先までの予測(青)と、直近の社会的要因による変動を定量的に評 価して反映した4週先までの予測(橙)を提供しています。 これにより、社会的要因による変動と気象要因による変動をリアルタイムに監視しながら、細かな生産調 整を行うことが可能になります。 「お天気マーケット予報」では今後も、気象予測を用いた予測をベースに、社会的要因によるトレンドの 変化を監視しながらサポートを行ってまいります。