巣ごもり効果減少VS気象 新型コロナ第6波影響下の市場を読み解く|トレンド予報5月
気象データ×統計から“真の社会的要因”を解析
気象の世界では12月から2月が冬。今年の冬は北・東・西日本では、12月下旬から1月上旬に顕著な低温となるなど、冬らしい冬となりました。その後も、東・西日本では断続的に強い寒気が流れ込み、2月末にかけて低温傾向となりました。
一般的な気象に関するニュースでは、平均気温について「平年差(1991年-2020年の平均との差)」で報道されることが多いですが、日本気象協会では、製造業・小売業の皆様との会話を通じて、「前年との違い」に着目して気象データを加工・活用しています。
前年2020年は12月中旬から強い寒波が南下しましたが、1月後半以降は気温が上昇し、2月は一転して高温傾向となりました。以下の図が日本列島の前年との傾向差です。12月は全国的に前年よりも高い、1月は北日本を除き前年より低く、2月は全国的に前年よりも著しく低い傾向となっていることがわかります。
また、過去2年間、消費動向に大きく影響を与えている新型コロナウイルスの感染状況は、12月までは落ち着いた状況が続きましたが、1月以降は感染力の強いオミクロン変異株の影響で、第6波と呼ばれる流行となりました。
ただし、重症化率の低さなどから緊急事態宣言は発出されず、まん延防止等重点措置の発出が行われた地域が多くなりました。外食・旅行産業は引き続き厳しい状況が続きましたが、人流データは前年同時期よりも若干回復していました((出典:「V-RESAS、株式会社Agoop『流動人口データ』)。
消費者の新型コロナウイルスに対する恐怖心は徐々に和らぎ、「巣ごもり」などに代表される特異な消費行動なども落ち着きを見せた時期と言えるのではないでしょうか。
売上に対する気象の影響度の高い商材は、売上データや新型コロナウイルスに関する情報だけでは、購買行動の変化が定量的に分析できません。日本気象協会では、気象データを使って売上(インテージSRI+)を統計モデルでシミュレーションし、気象による変動要因の大きさを推定することで、真の社会的要因の大きさを推定する取り組みを行っています。
なお、社会的要因とは、気温では説明できない何らかの売上変化要因を指し、C(社会要因)=A(売上前年比)-B(気温要因)で推定しています。
売上分析に進みます。たとえば上の図で、外出時に利用する「使い捨てカイロ」に注目すると、前年比120%の伸びとなっています。内訳を見てみると、気温要因が+10pt、社会的要因は残りの+9ptと分析されます。気象で説明できない社会的要因も半数弱を占めますが、「すべてが外出量の回復の影響ではない」という点がポイントです。
「リップクリーム」も同様で、前年比109%のうち、気温要因が+5pt、社会的要因は残りの+4ptと分析されます。マスクの着用率は高い状態が続いていますが、外出時に唇の乾燥を覚えるシチュエーションが増加していたことが伺えます。
一方、「ミネラルウォータ類」、「液体茶」などは前年比100%超となっていますが、気温要因はマイナス・社会要因がプラスとなっています。外出の回復に伴って需要が伸びていますが、寒い冬の影響で伸び悩んだと言えそうなカテゴリです。液体茶には「HOT」タイプが含まれますが、全体のボリュームは「COLD」タイプが多く、このような結果になっています。やはり冬でも、気温が高いほど喉が渇きやすい、気温が低いほど喉は乾きにくい、なんですね。
一方で、「手洗い・アルコール消毒」、「巣ごもり」のようなコロナ禍を代表するような行動変容には、売上データ上も落ち着きが表れています。上の図は「売上が落ち込んだ商材」です。「ハンド&スキンケア」は前年比99%と微減ですが、気温による押し上げ要因が4pt、、社会的要因は残りの-5ptと分析されます。
寒さや乾燥によって手荒れ・肌荒れが生じやすい状況でしたが、「手洗い・アルコール消毒」のしすぎによる手荒れの影響は押し下がっていると言えるでしょう。感染対策は継続しつつも、知らず知らずのうちに、頻度が落ちているのかもしれませんね。
同じく食品でも、前年は「巣ごもり」の影響を受けた「鍋つゆ」や「春雨&くず切り」、「シチュー」が、気温要因はプラス、社会要因がマイナス、となっています。大人数での居酒屋利用などはまだ自粛傾向が続いていますが、少しずつ近所の飲食店など、家庭外で食事を取るシーンが増えていることが伺えます。
上のカテゴリで、一つだけ毛色が異なるのは「目薬」です。今年は2月末まで厳しい寒さが続いたことで、花粉の飛散開始が前年よりも遅れ、気温要因・社会要因ともにマイナスとなっています。社会要因には、「花粉飛散量」のような当週の気温だけでは説明できない要因も含まれています。現代病の代名詞と言われる花粉症関連商材の売上も、「年々の伸び」だけでなく、気象で説明できる要素があるのですね。
まだまだ新型コロナウイルスに対する警戒は続いていますが、Withコロナの新たな価値観によって消費行動に変化が生じているのかもしれません。気象データや新型コロナウイルス関連データだけではなく、イベント情報や店頭キャンペーン情報、消費者アンケートなど新たなデータを組み合わせることで、より深い考察ができることが期待されます。
なお、日本気象協会では、人々の行動データや経済指標、商品の価格などを組み合わせて、多くの季節商材の売上分析や需要予測モデル構築を行っています。
気温1℃あたりの効果
ところで、このような売上分析の「気象の効果」はどのように計算しているのでしょうか。今回少し計算の一部を紹介します。
日本気象協会では、300を超えるカテゴリ(サブカテゴリ含む)のインテージSRI+データと気象の関係をあらかじめ分析し、独自の統計モデルの中で「気温1℃あたりの効果」を算出しています。前年を基準に売上計画を立てる企業が多いと思いますが、週平均気温の前年からの変化の平均は±2℃程度。たとえば、気温1℃あたり5%の売上効果があるカテゴリであれば、毎週前年からの売上変化要因のうち、平均的に±10%程度の気象効果が含まれていることがわかります。
日本気象協会では、このような気象の効果を商品別・エリア別・週別に計算し、過去の売上要因分析や商品の需要予測に活用。あらゆる企業様の経営分析・営業戦略・在庫管理などにお役立ていただいています。
向こう一ヶ月の気温要因による売上予測
今後、日本列島では南から徐々に梅雨入りし、本格的な雨のシーズンになる見込みです。この先1ヶ月は前年と比べてもやや気温が低い状況が続きますが、6月の気象の動向は未来(=7月~8月の夏本番)を占うものではありません。仮に直前の夏商材の売上が「前年90%」といった速報値出ても、直前の気象要因が影響している可能性もあります。
日本気象協会では、季節商品においては、「直前の前年比」、「前年実績」だけではなく、「前年の気象がどうだったか」と最大6ヶ月先までの最新の気象予測を参考に、販売計画や需給計画を組み立てていただくことを提案しています。
「気温予測だけでは売上予測に変換できない」という企業の皆様に対しては、モデル構築済みのサービスとして、株式会社インテージの保有する全国小売店販売データ(SRI +)を用いた製造業向け簡易版商品需要予測サービス「お天気マーケット予報」を提供しています。気象と社会的要因による需要の変化をリアルタイムに監視しながら、気象予測に基づき約 260 カテゴリにおける15 週先までの需要予測を行っています。
以下の図は実際の最新の「液体茶」のお天気マーケット予報です。気象情報に関する法律上、気象予測はこの記事では公開ができませんが、「暑ければ暑いほど売れる飲料カテゴリ」の特徴が、売上予測の前年との差異に表れているデータとなっています。また目先4週間の売上予測には、直前の社会要因も考慮した直近補正予測(オレンジ色棒グラフ)も表示しています。
過去の売上を振り返る際に、「すべてがコロナによるものだ」、「販促情報だけが唯一の説明因子だ」などと決めつけてしまっては、正確に要因を分析できません。「要因は一つではない」という視点から、気象データのような外部要因も含めた様々な因子を統計的に分析することが大事です。
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