キーワードは“寒暖差”3年連続ラニーニャ現象下の季節商材市場を読み解く|トレンド予報2月
気象データ×統計から“真の社会的要因”を解析
昨年の秋から冬にかけては、日本列島付近は3年連続で「夏暑く、冬寒い」でお馴染みのラニーニャ現象の影響を受けています。10月から11月にかけては全国的に寒暖の変化を繰り返しながらも暖かく経過しましたが、12月中旬以降は冬らしい冬に。寒さが緩む時期もありましたが、1月下旬には記憶にも新しい「最強寒波」によって大雪や観測史上一番の寒さとなった地域も多くありました。寒暖の変化が大きく、西日本を中心に寒気が南下しやすいのはラニーニャ現象の典型的な冬の傾向です。
さて、一般的な気象に関するニュースでは、平均気温について「平年差(1991年-2020年の平均との差)」で報道されることが多いですが、製造業・小売業の皆様との取り組みにおいて、気象データを売上予測に活用する上では、「前年との違い」に着目していますので、今回も前年と比較した分析をいくつかご紹介したいと思います。
前年2021年も同じラニーニャ現象だったこともあり、秋から冬にかけての気温の傾向は似ていました。秋冬商材市場の前年との差異に着目する上で、大きく異なるポイントは以下の2つです。
① 前年より2週間早く訪れたシーズンイン(10月)
10月3日週全国平均気温18.5℃(前年差-2.9℃)
② 寒さのピーク時期の“寒暖差”(1月)
1月9日週全国平均気温7.2℃(前年差+3.2℃)
⇒1月23日週同1.4℃(前年差-3.2℃)
実際に気象が商品市場に与えるインパクトはどの程度だったのでしょうか?
こちらは私がWeather Impact Dashboardと呼んで愛用している、インテージSRI+データを利用したモニタリングツールです。上の段は平均気温、真ん中の段は市場の推移を表しています。ここで取り上げている商材は冬の食卓の代名詞、シチューです。赤色の線が今年、グレーの線が前年を表していて、シチューの場合、赤の線とグレーの線の上下関係が真逆、すなわち“気温が前年よりも低くなった時に市場が拡大している”ことが一目瞭然です。
このダッシュボードの一番の特徴は、下の段、前年からの売上変化を気温要因(赤色※平均気温を利用)と社会要因(緑色)に分けて自動で分析している点です。社会的要因とは、気温では説明できない何らかの売上変化要因を指し、C(社会要因)=A(売上前年比)-B(気温要因)で推定しています。
シチューで見ると、シーズンインにあたる①のタイミング(10月3日週)では気温要因による急激な市場の伸び(赤色棒グラフが上に突き出ている)が見られますね。この週は前年プラス26%の市場ですが、実にそのうちの23ptが気温要因です。前年よりも2週間早い寒さの到来となりました。
従来の寒さのピークにあたる②のタイミング(1月9日-16日週)では、1月中旬は季節外れの暖かさで前年よりも2℃以上高く推移、市場も気温要因によって伸び悩んでいることが見てとれます。しかし1月23日週になると「最強寒波」の寒さによってシチュー市場は前年を大きく上回る水準に回復していることがわかります。
ここからは、あらゆる商材で2つのタイミングの影響を見てみましょう!
① 前年より2週間早く訪れたシーズンイン(10月)
こちらが2022年10月3日週に売上が伸びた主な商材のうち、特に気温の影響が大きかったカテゴリです。シチュー以外のデータを見てみると、やはり急激な伸びを見せたのは鍋関連商材!鍋補完材(ちくわぶ等)は、前年プラス68%のうちほとんどが気温によるものである他、春雨&くず切り、揚げ物(さつま揚げ等)、鍋の締めに使われるような生麺&ゆで麺が気温要因による伸びを見せています。
直前の9月までは顕著な残暑傾向が続いていたこと、前年2021年の寒さの到来が10月後半だったこともあって、秋冬商材の立ち上がりで慌ててしまうことになった営業・需給担当者の方も多いのではないでしょうか。
市場規模の大きなところかつちょっと意外(?)なところでは、スナックやカップインスタント麺も気温の影響を受けています。スナックは前年から87億円増のうち26億円、カップインスタント麺は前年から86億円増のうち20億円が気象の影響です。
これらの小麦粉を使う商品は値上げラッシュの印象が強く、前年からの金額ベースの増加を全て価格上昇の効果と捉えてしまいそうになりますが、実は気温だけでも週あたり20億円以上のインパクトを受けているのですね。社会情勢が激しく変化する中、こういったシーズンインのタイミングで、気象の影響の分析を通じて社会要因の大きさを正確に把握することは、需要のピークに向けて正確な見立てを行う上で大切かと思います。
② 寒さのピーク時期の“寒暖差”(1月)
次に、1月中旬~下旬の寒暖差が生じた時期について、食品以外も含めた冬商材代表5品目で、前年との気温傾向の対比が象徴的だった1月9日週(前年差+3.2℃)・23日週(前年差-3.2℃)の市場傾向の違いを見てみましょう。
寒さが緩んだ1月9日週は前年が冬らしい寒さだったこともあり、冬商材は軒並み苦戦。使い捨てカイロにいたっては、前年比67%という厳しい市場に。33%のマイナスのうち、29ptが気温要因であると分析しています。食品系ではココア・シチュー・スープ類などが苦戦。減少要因のうち大半を気温が占めているのが表から一目瞭然です。一方で、アイスクリームやスポーツドリンクのような夏商材が気温要因も寄与して好調なのも興味深いところです。
さて、2週間後、「最強寒波」の到来で状況はどう変わるのでしょうか?
まさに形成が逆転しました!使い捨てカイロは前年比173%。シチュー・スープ類・ココアも気温効果で市場が押し上がっていることがわかります。仮に年明けに前年割れとなっても、気象の影響を正確に把握できていれば、寒波による需要の回復に備えることができたのではないでしょうか。逆にスポーツドリンク・アイスクリームは主に気温要因で前年割れとなっています。夏商材ですが元の市場規模が大きいので、1月23日週の場合、一週間でスポーツドリンクは4.3億円、アイスクリームは8.6億円が気温による押し下げ効果だったと分析されます。
最後に一つ、面白いカテゴリを見てみましょう。ハンド&スキンケア市場は本来冬になると、あかぎれ等の需要によって寒ければ寒いほど売れる商材です。1月9日週では前年から15%のマイナスのうち9ptが気温要因、6ptが社会要因との分析結果に。23日週は気温だけで見れば5ptのプラスになるはずだったところ、マイナス7ptの社会要因によって前年比98%となっていて、どちらの週も6-7ptのマイナスの社会要因が含まれることがわかります。
コロナ禍では過度なアルコール消毒による肌荒れがハンドクリーム需要を押し上げていたと言われていましたが、気温の影響を取り除くことで、新型コロナウイルスに対する価値観の変化に伴うトレンドの動きも把握することができますね!
消費財マーケティングの世界において、今回着目した「前年比」はわかりやすく今後も重要な指標であることは間違いありません。ただし今後の傾向の見立てを行う際に、ベースとしている「前年実績」や、トレンドとして考慮する「直前実績」のうち、気象がどの程度影響しているかを把握することは不可欠です。結果として、商材ごとのコロナや価格上昇等の社会要因を正確に理解することにもつながります。合わせて、最新の気象予測を活用し、今回ご紹介したような「前年との違い」や「寒暖差」を事前に把握することができれば、商材の売上変動にも備えることができます。
日本気象協会では、株式会社インテージの保有する全国小売店販売データ(SRI +)を用いた製造業向け簡易版商品需要予測サービス「お天気マーケット予報」を提供しています。気象と社会的要因による需要の変化をリアルタイムに監視しながら、気象予測に基づき約 260 カテゴリにおけ る 15 週先までの需要予測を行っています。
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